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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(オ)355号 判決 1974年6月17日

主文

理由

上告代理人笠原慎一の上告理由について。

原判決の確定したところによれば、上告人アサヒ交通有限会社の取締役である被上告人柏原芳雄、同神谷昭雄、同兼岡敏夫及び訴外田中忠義は、昭和四一年七月二五日、取締役の改選を目的とする臨時社員総会を同年八月五日に招集することを全員一致で決定し、これによつて同日予定どおり臨時社員総会が開かれたところ、同総会において新取締役選任の議決に入るに先立ち、同人らはその意を翻し辞表を提出しなかつたというのである。この事実から判断すれば、右四名の取締役は、右臨時社員総会の招集を決定したときに、原判決のいうように取締役改選の決議の成立を条件とする辞任の意思表示をしたものと解することは困難であつて、むしろ同人ら相互間において新取締役選任の決議の手続に入るまでに辞任すべき旨を申し合わせたに過ぎないものと解するのが相当である。そして、有限会社の取締役がこのような申合せをしても、後にその申合せを撤回して辞任の手続をとらないことは許されるものというべきであり、辞任の手続をとらない以上、辞任したことにならないことはいうまでもない。したがつて、右四名の取締役は、辞任の手続をとらなかつた以上、辞任したものとはいえず、その辞任したことを前提とする本件新取締役選任の決議は無効であるとした原審の判断は、結論において正当といわなければならない。原判決には所論の違法がないことに帰し、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)

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